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広島高等裁判所松江支部 昭和35年(ネ)9号 判決 1961年3月20日

控訴人 成合久司 外五名

被控訴人 株式会社キネマ館

主文

本件控訴を棄却する。

訴訟費用は第二審および上告審を通じ控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す、被控訴会社が昭和二三年五月二〇日米子市角盤町三丁目大劇場本家二階で開催した臨時株主総会においてした決議は全部無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

(甲)  控訴人らの請求原因および被控訴人の主張に対する陳述

一、控訴人鈴木武左衛門は被控訴会社の監査役、その余の控訴人らはいずれもその株主であるところ、同会社は昭和二三年五月二〇日午前九時米子市角盤町三丁目大劇場本家二階で、臨時株主総会を開催し、次の決議をした。

(1)  資本金二万五千円を五万円に増資し、増資分二万五千円を五百株に分ち、現在株と合せて千株とする。

(2)(イ)  新株式五百株は、右当日午後四時現在における株主に対し、その所有株式一株につき一株の割当とする。

(ロ) 右の他を縁故募集とする。

(3)  株式引受申込期間を、同月二五日から同年六月二日までとする。

(4)  新株式の払込金は、一株につき五十円の全額払込とし、払込期日を同年六月五日とする。

(5)  割当および縁故募集株式の引受申込のないものの処分は、取締役会に一任する。

(6)  前各項に定めた事項のほか、増資実行に必要な事項は、総て取締役会に一任する。

(7)  旧株式は一定期間経過の後、新株券と引き換える。

(8)  増資に伴い定款の一部(資本金および株式数)を変更し、さらに株券の種類を五株券一種類から一株十株百株二百株券の四種類とする。

(9)  監査役を改選し、鈴木武左衛門は退職し、手島博を新に監査役とする。

二、しかし右決議は次の理由により無効である。

被控訴会社の代表取締役であつた訴外田中嘉作は、同会社の総株式五〇〇株のうち四五〇株を所有していたところ、かねてから控訴人成合久司、同前川小太郎との間に被控訴会社および訴外米子セントラル映画劇場の経営権をめぐつて紛争を続けていたが、訴外田中嘉作が両会社の経営から手を引き控訴人前川小太郎と訴外小池五一が被控訴会社の経営に当ることで和解が成立した。そこで、訴外田中嘉作は、昭和二二年一一月一〇日控訴人前川小太郎および訴外小池五一に対し二二五株宛を各代金六〇万円で譲渡したのであるが、控訴人前川小太郎は訴外田中嘉作から直接名義書換をしないで訴外小池五一に名義書換をした上、同年一二月二〇日過頃同人の手を介して右二二五株の株券の交付を受けたものであるところ、

(1)  被控訴会社は、昭和二三年五月八日控訴人らを除いた株主に対し、同月二〇日午前九時米子市朝日町所在の被控訴会社本社において臨時株主総会を開催する旨の招集通知を発したものであつて、発信と会日との間に法定の二週間の期間を置かなかつたものである。

(2)  右臨時株主総会は、招集通知に記載された場所と異なる同市角盤町三丁目大劇場本家二階において開催された。

(3)  被控訴会社の定款の規定によれば、取締役は、五株以上の株式を所有することがその資格要件であるところ、代表取締役田中嘉作は、前記の如くその所有株式全部を他に譲渡し取締役たる資格を失い、株主総会を招集する権限を有しなかつたのに、右臨時株主総会を招集したものである。

(4)  控訴人らの所有する株式を合せると、総株数の過半を占めるものであるところ、本件臨時株主総会は、控訴人らに招集通知をしないで開催されたものであるから、一部少数の株主に対する招集の通知洩れの場合と異なり、有効に招集されなかつたものである。

(5)  右株主総会の決議録(乙第三号証)によれば、株式総数五〇〇株、株主一九名中、出席した株主一〇名(委任状によるものを含む)その株式合計四五〇株となつているところ、

(イ) 控訴人前川小太郎は、右総会の議決に加わつていないので、前記譲受を受けた二二五株は、これを出席株として計算することができない筋合であるから、これに出席しなかつた株主の五〇株を加えれば出席株主の株式数は一七五株にすぎない。

(ロ) 被控訴会社の定款の規定によれば、議決権の行使について、代理人の資格を株主たるものに限定されているところ、前記の如く株主でない訴外田中嘉作が、四〇五株(ただしうち二二五株は同人の所有ではない)の株主小池五一の代理人として議決権を行使しているので、右議決は無効である。

(ハ) のみならず出席株主中訴外田中嘉作は、すでに前記二冒頭記載の如く控訴人前川小太郎、訴外小池五一に対しその持株全部を譲渡したものであるのに、株主名簿によれば、昭和二二年一一月三〇日右小池へ譲渡した旨の記載の上に貼紙をして譲渡の記載を隠蔽し、譲渡のなかつたもののように装つており、また訴外手島博、手島ハルエ、内田誠、田中馨、白土茂雄、井上清蔵、古藤平二郎、岸田正治ら八名は、いずれも昭和二二年一一月三〇日訴外小池五一から各自五株宛譲渡を受けた如く株主名簿に記載されているけれども、同日かかる譲渡の行われた事実はなく、右総会後に名簿を右の如く改ざんしたものであつて、これら九名は、総会当時は真実株主ではなかつたのである。

従つて本件臨時株主総会は、商法第三四三条(昭和二五年法律第一六七号による改正前)所定の定足数を欠くことが明らかであり、従つてその決議は無効である。

(6)  本件株主総会の決議は、その動機目的が公序良俗に反するので無効である、その理由は次のとおりである。

控訴人前川小太郎およびその他の一部株主の権利利益を侵害し不当に訴外田中嘉作らの利益を図るための本件臨時株主総会の招集は、権限の濫用であり、また田中嘉作ならびにこれらと通謀した前記手島博外七名は、いずれも右の如き公序良俗に反することを目的として議決権を濫用したものであつて、本件決議は無効である。

すなわち、控訴人前川小太郎、訴外小池五一は、前記の如く共同して被控訴会社を経営することになつたが間もなく相反目するに至り、訴外小池五一は、訴外田中嘉作に援助を求めた。右田中嘉作は、これを奇貨として再び被控訴会社の経営にあたり同派のもので利益をろう断しようと決意し、訴外小池五一、手島博その他の者と通謀し、控訴人前川小太郎らの株式名義書換の請求を理由なく拒絶して株主名簿に登載されていないことを理由に参加させず、田中嘉作一派の株主のみで倍額増資の決議をし、時価一、三三三円相当(当時の一株の時価は二、六六六円相当のところ株数二倍となりその価格は半額となる計算)の新株全部を独占したものである。

三、被控訴人の主張に対する陳述

控訴人前川小太郎が、被控訴会社に対し本件臨時株主総会の開催される以前に、正規の株式名義書換の請求をしなかつたことは認めるけれども、それは同会社の役員である田中嘉作、小池五一が、故意に妨害してその手続をさせなかつたものである。控訴人成合久司、合田繁一、柳多元春は、昭和二三年三月二七日被控訴会社に対しそれぞれ株式名義書換の請求をしたが拒否された。控訴人前川小太郎は、二二五株の株券の交付を受けた昭和二二年一二月二〇日頃から数回に亘り、訴外田中嘉作あるいは小池五一に対し、名義書換手続に協力方要請したにかかわらず、同人らは、言を左右にしてこれに応じないのみならず、右両名通謀の上、訴外小池五一の名で、同控訴人に対し右株券引渡等請求の訴訟を提起し、その訴訟中に本件臨時株主総会を招集したものであつて、訴外田中嘉作は、右株式の譲渡人として控訴人前川小太郎に対しその名義書換に協力すべき義務を負担していることは当然であると共に、同人が、被控訴会社の代表取締役の地位にあつた以上、たとえ右控訴人が、定款所定の方式を履践して名義書換の請求におよばなかつたとしても、被控訴会社において対抗要件の欠缺を主張し、株主権を否認することはできない。このことは、控訴人成合久司、合田繁一、柳多元春についても同然である。控訴人鈴木武左衛門は、すでに監査役を辞任し、本件臨時株主総会当時株主ではなかつたが、後任の監査役が選任されるまでは商法の規定に基づき監査役としての権利義務がある。

(乙)  被控訴人の答弁

一、本案前の抗弁として、控訴人美甘俊重を除くその余の控訴人らは、本件臨時株主総会当時株主でなかつたので、原告たる適格を欠くものである。

二、請求原因に対する陳述

(1)  一の主張事実中、控訴人美甘俊重が株主(持株五株)であること、および控訴人主張の日時場所において臨時株主総会が開催され、その主張の如き決議の行われたことを認める。控訴人成合久司、前川小太郎、合田繁一、柳多元春の四名は、右株主総会後である昭和二三年六月中に株主となつたものであり、控訴人鈴木武左衛門は、もと監査役であつた。

(2)  二の冒頭記載事実について、

訴外田中嘉作が、その所有株式のうち二二五株を控訴人前川小太郎に六〇万円で譲渡したとの点を否認する。訴外田中嘉作は、昭和二二年一一月一〇日、その所有株式四五〇株について、訴外小池五一との間に交換契約を締結し、右訴外人は、その際控訴人前川小太郎との間に被控訴会社の共同経営に関する契約をも締結した。右控訴人は、訴外小池五一から一部分の株式の譲渡を受ける契約をしていたのである。

訴外田中嘉作は、同月三〇日限り他の取締役である訴外井上清蔵、白土茂雄とともに取締役を辞任することになつていたのであるが、訴外小池五一から、控訴人前川小太郎において右共同経営に関する契約条項を守る誠意のあることが疑わしいとの理由で、取締役の辞任を延ばすよう懇請を受けたので、これを容れ、被控訴会社の運営の必要上、取締役の資格株として各五株宛につき譲渡を留保し、その余の四三五株を訴外小池五一に譲渡し、その名義書換を完了したものである。

(3)  二の(1) 事実について、

被控訴会社が、控訴人主張のような記載内容の招集通知を発したことを認める。右通知は、昭和二三年五月七日株主名簿登載の各株主に宛てて発したものである。

(4)  二の(2) について、

控訴人の主張事実を認める。しかし会場を変更するに際し、招集場所である被控訴会社本社の前および新会場の前に、それぞれその旨の掲示を出し、当日午前九時の招集時刻から午前一一時三〇分頃までの間、連絡員に立番をさせる等して、いささかも株主に不都合を与えておらず、総株主一九名中一〇名、株式総数五〇〇株中四五〇株出席しているので、会場の変更は、決議の無効原因とならない。

(5)  二の(3) について、

被控訴会社の定款に取締役となる資格として、株式五株以上を所有することを必要とする規定のあることを認める。訴外田中嘉作は、前記のとおり五株の株式を所有していたので、取締役たる資格に欠けるところはなかつた。

(6)  二の(4) 事実について、

控訴人美甘俊重、同鈴木武左衛門(非株主)を除くその余の控訴人らは、後に記載する如く当時株主名簿に登載されていないので、同人らに対して招集通知をしなかつたものであつて、控訴人の主張するような違法はない。

(7)  二の(5) 事実について、

控訴人前川小太郎は、原審の準備手続において自ら認めているように、本件臨時株主総会までに、被控訴会社に対して、正規の株式名義書換の請求をしておらず、従つてその主張の二二五株は、株主名簿に同人の所有として記載してないので、被控訴会社に対し、株式たることをもつて対抗できない筋合である。

訴外田中嘉作は、当時五株の株主であり、かつ株主名簿にもこの記載がされている(甲第九号証の七九枚目表)ので、訴外小池五一の代理人として議決権を行使したことは、定款の規定に反したものではない。

手島博外七名は、当時いずれも株主であつて、株主名簿にその記載がある。株主名簿に控訴人主張のように貼紙をした箇所があるけれども、それは、誤謬記載を訂正したものであつて、誤記を抹消することなくしてこれに代る方法として、その上に貼紙をして会社の証印を押捺したものである。

従つて、本件臨時株主総会の決議に、法定の定足数を欠いた違法はない。

(8)  二の(6) 事実について、

本件臨時株主総会の招集ならびに議決が、権利の濫用であるとの点を否認する。控訴人前川小太郎その他の一部株主が、株主名簿に登載されていない限り、株主であることを被控訴会社に対抗できないことは明白であるところ、控訴人前川小太郎が、被控訴会社に対し株式の名義書換の請求をしたことはなく、控訴人美甘俊重を除くその余の控訴人らにおいて、名義書換停止期間外に、適法に名義書換を請求したことがないので、控訴人ら(控訴人美甘俊重を除く)は、本件臨時株主総会当時、被控訴会社の株主名簿に株主として登載されていない。従つて、被控訴会社が、右控訴人らに対し招集通知をしなかつたのは当然であつて、これは別段権利の濫用ではなく、また決議は、いずれも株主平等の原則に立脚して、公正にされ、何ら不法な点はないので、不当に訴外田中嘉作らの利益を図るために招集され、かつ決議されたとの主張は失当である。

(丙)  証拠

(一)  控訴代理人は、甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証の一、二第六号証の一ないし四、第七号証一、二第八、九号証、第一〇号証の一ないし四五、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一、二第一三ないし第一五号証を提出し、原審における証人船森将俊の証言控訴人合田繁一、鈴木武左衛門、前川小太郎の各本人尋問の結果および差戻前の当審における控訴人成合久司、前川小太郎の各本人尋問の結果を援用し、乙第一号証、第二号証の一ないし四第三、四号証第七号証の一、二第八号証第九号証の一ないし四第一〇号証の一ないし五、第一一号証第一二号証の一ないし三第一三、一四号証第一八号証の一、二の各成立と第五、六号証の原本の存在と成立を認め、第三ないし第六号証を利益に援用し、その余の乙号各証の成立は不知と述べ、

(二)  被控訴代理人は、乙第一号証第二号証の一ないし四、第三ないし第六号証第七号証の一、二第八号証第九号証の一ないし四第一〇号証の一ないし五第一一号証第一二号証の一ないし三第一三、一四号証第一五号証の一ないし一〇第一六号証の一ないし六第一七号証の一ないし七第一八号証の一、二を提出し、原審における証人田中嘉作、内田誠、久家庫造、小池五一、大倉寿賀丸こと竹内林蔵の各証言、差戻前の当審における証人内田誠(第一、二、三回)田中嘉作(第一、二回)の各証言を援用し、甲第一ないし第三号証第四号証の三、第五号証の一、二第六号証の一ないし四第七号証の一、二第九号証第一〇号証の一ないし四五第一三ないし第一五号証の成立を認めて第一号証第九号証第一〇号証の一ないし四五を利益に援用し、第一一号証の一ないし四のうち各郵便官署の作成部分の成立を認めその余の部分およびその余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

被控訴人主張にかかる、控訴人美甘俊重を除くその余の控訴人らは、いずれも当事者適格を欠くとの本案前の抗弁について、当裁判所は、これを採用することができないものと判断したところ、その理由は、原判決の示す理由と同一であるからこれを引用する。

本案について考察する。昭和二三年五月二〇日被控訴会社の臨時株主総会が、招集場所以外の米子市角盤町三丁目大劇場本家二階で開催されたことは当事者間に争がない。

(一)  法定期間の有無

成立に争のない甲第三号証に弁論の全趣旨を総合すれば、右招集通知は、昭和二三年五月八日に発せられたものと認めるのが相当である。右認定を覆えし被控訴人主張の同月七日通知した事実を認める証拠はない。そうすると、右招集通知は、会日との間に法定の期間を置かない違法のものといわねばならないけれども、この違法は、総会の決議の無効原因となるものではなく、ただその取消原因となるにすぎないことは、商法第二四七条第一項(昭和二五年法律第一六七号による改正前)の規定に徴し明らかである。

よつて控訴人の右主張は採用しない。

(二)  招集場所変更

本件臨時株主総会が、招集通知場所でない処で開かれたことは、当事者間に争がない。株主総会の招集通知において開催の場所を指定するのは、株主に対し総会出席の機会を確保するにあつて、特定の場所そのものに格別の意義があるからではないので、開催の場所を変更するについて正当な理由があり、かつ変更について相当な周知方法を講じることができるときは、会場を変更することができるものと解するところ、原審証人内田誠、同大倉寿賀丸こと竹内林蔵の各証言を総合すれば、被控訴会社は、右総会の会場に充てることにしていた場所を訴外竹内林蔵、船守某らも使用しその道具や荷物等を置いてあつたため会場としては狭いと思われたので、総会当日の朝、急いで会場を変更することになり、指定会場の前にその旨の掲示を出した上訴外竹内林蔵に依頼して参集して来る株主に対し会場変更の旨を伝達させ、また、新会場の前にも同様掲示を出し、訴外酒井某に依頼し定刻より一時間余以前から案内人として会場前に立たせる等の処置をとり、もつて株主に対し会場の変更を周知させた事実を認めることができるので、右会場の変更は、新会場で開催された本件臨時株主総会を無効たらしめる事由とはならないものといわねばならない。よつて控訴人の右主張は採用しない。

(三)  出席者の資格

控訴人ら(控訴人鈴木、同美甘を除く)および訴外田中嘉作前記手島博外七名等が株主であることについて、当事者間に争があるので、まずこの点について判断する。

(1)  成立に争のない甲第一号証第一〇号証の一ないし四五、乙第四号証第八号証原審証人小池五一の証言、原審および当審(差戻前)における証人田中嘉作、控訴人前川小太郎の各供述に弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人前川小太郎は、被控訴会社の経営をめぐつてその代表取締役であり、総株式五〇〇株のうち四五〇株を所有していた訴外田中嘉作と紛争を続けていたが、昭和二二年一一月一〇日、訴外田中嘉作が右経営から手を引き控訴人前川小太郎と訴外小池五一の両名で共同して経営することとして、和解が成立し、その結果、控訴人前川小太郎は、六〇万円を支払つて二二五株を取得することになつたが、訴外田中嘉作から直接名義書換をしないで、同人から一且訴外小池五一に名義書換をした上、同年一二月二〇日過頃右小池から二二五株の株券の交付を受け、これを所有していた事実を認めることができる。そして右控訴人が、本件臨時株主総会当日までに被控訴会社に対し、右株式について正規の名義書換請求の手続をしなかつたこと、および株主名簿に登載されていないことは、当事者間に争がないところ、控訴人は、代表取締役である田中嘉作が、故意に、右手続を妨害したのであるから、被控訴会社において、株主名簿に株主として記載のないことを主張して株主権を否認することはできないというけれども、控訴人の全立証によるも右事実を確認するに足らず、かえつて前顕甲第一〇号証の一ないし四五、成立に争のない甲第一三号証に弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人前川小太郎所持の株券四五枚(二二五株)は、いずれも最終の譲受人が訴外小池五一の記載となつており、しかも本件臨時株主総会当時、右控訴人は、訴外小池五一から右株券引渡等請求訴訟(鳥取地方裁判所米子支部昭和二三年(ワ)第一一六号事件)を提起されていたので、右控訴人は、先ず訴外小池五一との紛争を解決しなければ、右株式について名義書換の請求をすることができない実情にあつたことが窺われるので、被控訴会社が不当に名義書換を拒否していたものとは解し難い。そうすると、控訴人前川小太郎は、被控訴会社に対し右二二五株の株主であることを主張することができず、被控訴会社としては、株主名簿上の株主を依然株主として認めざるをえないわけである。

(2)  控訴人成合久司、合田繁一、柳多元春は、いずれも昭和二三年三月二七日被控訴会社に対し正規の書類を具備して名義書換の請求をしたが不法に拒否されたと主張するけれども、成立に争のない甲第二号証原審証人船森将俊の証言原審における控訴人合田繁一、当審(差戻前)における控訴人成合久司の各本人尋問の結果は、後記証拠に照し未だ右主張事実を認めるに足らず、他にこれを認めうる資料がなく、かえつて成立に争のない乙第九号証の一ないし四第一〇号証の一ないし五第一二号証の一ないし三原審における証人内田誠の証言を総合すれば、控訴人成合久司は、訴外松浦善吉、訴外野川啓一からそれぞれ譲渡を受けた各五株、控訴人柳多元春は、野川啓一から譲渡を受けた五株について、被控訴会社に対しいずれも早くとも昭和二三年三月二〇日以後同月末頃までの間に、名義書換を請求したが、松浦善吉所有株式は、その先代亡松浦茂大郎の名義となつており、野川啓一所有株式については、訴外後藤豊茂が、同人の後見人となつていたため、いずれも名義書換について松浦善吉、後藤豊茂の印鑑証明が必要であるのに、これを具備していなかつたので、名義書換ができず、印鑑証明がととのうまでに、定款の規定によつて四月一日から本件臨時株主総会終了に至るまで名義の書換を停止された事実を認めるに足る。そうすると、右控訴人らは、株主名簿に登載されていないので、会社に対し株主であることを主張することができない。

(3)  訴外田中嘉作の関係について考察するに、成立に争のない甲第一号証第九号証当審(差戻前)における証人内田誠(第一、二、三回)同田中嘉作(第一、二回)の各証言に弁論の全趣旨を総合すれば、訴外田中嘉作は、前記のとおり被控訴会社の経営から手を引くべくその所有株式四五〇株全部を手離すことにしたものの、訴外小池五一から、控訴人前川小太郎との前記共同経営に関する契約の履行を懸念して援助を求めて来たので、代表取締役の職に留ることとし、その資格株として定款所定の五株を訴外小池に譲渡しないで留保しておいた事実を認めることができる。もつとも右甲第九号証(株主名簿)中訴外田中嘉作の株券(番号第五〇号五株)の「譲渡年月日及譲受人欄」にした貼紙の下に「小池五一22、11、30」との記載のあることが窺われるけれども、前記証人内田誠の、田中嘉作から小池五一に対する名義書換に際し誤つて記載したものを抹消する代りに紙を貼つて処理した旨の証言、右貼紙に「定款変更ニヨリ新株券乙の一号ニ転シ統合ス」との記載があり、右株主名簿中乙第一号株券(一〇株)について「取得の年月日欄」に、五株を昭和二二年六月一四日に、五株を昭和二三年七月二一日に取得した趣旨の記載が、「譲渡年月日及譲受人」欄に昭和二三年七月二九日在里新一郎に譲渡した趣旨の記載があることに徴し、右第五〇号株券(旧株券)は訴外田中嘉作の名義のままであつたことが窺われること等彼是考察するとき、前記貼紙の下にある記載から直ちにその記載の昭和二二年一一月二〇日に訴外小池五一に譲渡されたものと認めることはできない。

(4)  訴外井上清蔵、白土茂雄関係について、前顕甲第九号証成立に争のない乙第一号証第三号証当審(差戻前)における証人内田誠(第一、二、三回)同田中嘉作(第一、二回)の各証言に弁論の全趣旨を総合すれば、訴外井上清蔵、白土茂雄は、いずれも株式五株を所有して取締役に就任していたが、代表取締役田中嘉作の輩下であつて同人とその進退を共にすべき関係にあつたので、前記の如く右田中嘉作が代表取締役の職に留まることになつたためこれに伴い取締役として残ることになり、その資格株五株を訴外小池五一に譲渡しなかつた事実を認めることができる。もつとも右甲第九号証中訴外井上清蔵の株券(番号第五五号五株)同白土茂雄の株券(番号第四二号五株)について、いずれも前記田中嘉作の株券(番号第五〇号)と同じく貼紙をして処理してあるけれども、証人内田誠の同証言、右甲号証、の記載により明らかな如く訴外井上清蔵の右株券は、新株式五株と合せて乙第一四号一〇株券となり昭和二三年八月三日訴外山本秀子に譲渡されていること、訴外白土茂雄の右株券は、新株式五株と合せて乙第一三号一〇株券となり同日訴外河本春一に譲渡されていること等を彼是考察すれば、右各貼紙の下にある記載から直ちに昭和二三年一一月二〇日、訴外小池五一に譲渡されたものと認めることはできない。

(5)  訴外古藤平三郎、手島博、岸田正治、手島ハルエ、田中馨、内田誠関係について、

前記甲第九号証によれば訴外古藤平三郎、手島博、岸田正治、手島ハルエ、田中馨、内田誠は、いずれも昭和二二年一〇月三〇日訴外小池五一から、同人が同日訴外田中嘉作から譲渡を受けた株式のうち各五株宛(株券番号は古藤平三郎分第一号、手島博分第九六号岸田正治分第九七号、手島ハルエ分第九八号田中馨分第九九号内田誠分第一〇〇号各五株券)譲渡を受け、本件臨時株主総会当時右株主名簿(甲第九号証)に株主として登載されていた事実を認めることができる。もつとも右甲号証を仔細に見れば、株主小池五一の株券第一号について「譲渡年月日及譲受人」欄の譲渡に関する記載をした貼紙の下に昭和二三年二月二五日古藤平三郎に譲渡した旨の記載、株券第九八号について同欄の同じく貼紙の下に昭和二二年一二月二五日の年月日の記載、株券第九九号について同欄の同じく貼紙の下に昭和二二年一二月二五日田中馨に譲渡した旨の記載、株券第一〇〇号について同欄の同じく貼紙の下に同年一二月二五日内田誠に譲渡した旨の記載が、それぞれあることが窺われるけれども、各その年月日が本件臨時株主総会の開催された昭和二三年五月二〇日後でないので、右各記載は、当該株式の譲受人が右総会当時株主でななかつた事実を認定する資料とするに足らない。

そうすると、本件臨時株主総会は、取締役たる資格を欠き招集権限を有しない訴外田中嘉作の招集したものであり、また過半数の株式を所有する控訴人らに対し招集通知を欠いたものであるから、その決議は無効であるとする控訴人の二の(3) (4) の主張は、その前提事実を欠くことになるので、控訴人美甘俊重に対する招集通知の有無について判断するまでもなく採用し難く、また控訴人前川小太郎、成合久司、合田繁一、柳多元春は、株主名簿に記載されておらず、かつ被控訴会社に対し株主権をもつて対抗しえないのであるから、株主権を行使することはできないのであつて、この事実および前記田中嘉作、小池五一、手島博、手島ハルエ、岸田正治、古藤平三郎、田中馨、内田誠らが株主名簿に登載された株主であることを考えれば、前顕乙第三号証により本件決議が定足数を満たしている事実を認めることができるのみならず、定足数を欠くことは、決議の取消原因であつて、無効原因となるものではないので(本件臨時株主総会当時施行の商法第二四七条参照)、控訴人の二の(5) の主張は採用の限りでない。

(四)  公序良俗違反

如上諸般の事情に照らせば訴外田中嘉作が本件臨時株主総会の行われた当時、控訴人前川小太郎と訴外小池五一が前記二二五株をめぐつて訴訟をしていることを知つていたからといつて、本件株主総会の招集権および議決権の行使について、権利の濫用があるものとは認められず控訴人の全立証によるも訴外田中嘉作が代表取締役として、また訴外手島博その他のものと共謀し控訴人らの利益を害し田中嘉作一派の利益を図るため本件臨時株主総会を招集し、議決をした事実を認めるに足らない。控訴人ら(控訴人美甘俊重、鈴木武右衛門を除く)は、前記のとおり被控訴会社に対し、株主権をもつて対抗することができない立場にあつたので、被控訴会社が招集の通知をしなかつたことをもつて、その議決権を侵害されたということはできない。よつて控訴人の二の(6) の主張は採用しない。

そうすると本訴請求は失当として棄却すべきものであつて、同旨の原判決は結局相当であるから、本件控訴を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅芳郎 藤田哲夫 長谷川茂治)

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